【要旨】
コーポレートガバナンス・コードと別文書として作成することは不適切であり、対応するコードの各項目に「投資家の視点」として注記すべきである。
【説明】
本ガイドラインの記載事項は、その大半が、
投資家の考えるガバナンスのベストプラクティス
である。
コードの趣旨に包含されているはずのものであり、企業が投資家との対話を行う指針を示すものではない。
そのような内容のものを(コードの付属文書とは言え)コードとは別の文書とすれば、
1)コードの各項目との連関が不明確になる
2)その他にも付属文書が制定される事態となれば、それらとの相互関係の検証が煩雑となり、最悪の場合矛盾が生じかねない
という弊害があるのである。
故に、コードの中に記載することが相当である。
コンプライ or エクスプレインの対象外であることを明確にするためには、「投資家の視点」という注記にとどめる方法などで解決可能と考えられる。
もし、「対話ガイドライン」なるものを制定するならば、それは、対話の方法論に関するものであるべきであろう。
なお、「投資家」の語は広すぎる。「機関投資家」とするのが相当である。
まあ、当然ながら、当該ガイドラインはほぼ原案のまま制定された。
少し驚いたのは、パブコメへの意見に上記の私の意見は掲載されなかったこと。
と言いながら、旬刊商事法務誌に掲載された当該ガイドラインの解説は、コポガバコードと対比される形で書かれていた。
ガイドライン自体そのように書かれるべきだったと思うな。
上記1.の定義に当たっては、以下の条件を満たすようにしてください。
1)全取締役が業務執行取締役である取締役会でも完全に存在すること
2)非業務執行取締役の職務執行を監督するという行為を包含すること
3)取締役会の意思決定機能と完全に両立すること
4)監査との相違を明らかにすること
コーポレートガバナンスコード 会合で冨山和彦氏が出した意見書。
http://www.fsa.go.jp/singi/corporategovernance/siryou/20141125/02.pdf
「監査役会設置会社にはコーポレートガバナンス上の制度的な欠点があると言わざるを得ず、指名委員会等設置会社などの方が相対的に優れている点が認められる」(2ページ)
と!
ナンセンス!逆である。
委員会設置会社こそ、コーポレートガバナンスに制度的欠陥があるのだ。
10月29日にも掲載したが、下の図を見て欲しい。
委員会設置会社の構造は、非取締役会設置会社の構造とパラレルである。
すなわち、非取締役会設置会社における株主総会を取締役会に、取締役を執行役に置き換えると委員会設置会社と同様の経営構造なのである。
非取締役会設置会社を、ガバナンスがすぐれた会社だと言う人はいまい。経営陣が支配株主から独立していたとしてもだ。
委員会設置会社は、非取締役会設置会社同様、経営者のフリーハンドが大きく、上位機関はそれを事後チェックする。
委員会設置会社の本質は、監督ないし牽制の強化というより、執行役に大幅に権限を委譲することにより、取締役会による「P・C・A」プロセスへの関与を待たずにスピーディーに業務を執行できる機動力にある。
委員会設置会社にあるのは「攻めのガバナンス」ではなく、「攻めのために緩めたガバナンス」ではないか。
さらに、論文でも述べたが、委員会設置会社では
・執行役間の合議が制度的になく、PDCAの過程が文書化されない
・取締役の責任が不明確
という点も指摘したい。
一方、監査役設置会社は、経営組織と牽制組織を明確に分離し、経営管理は合議を通じて行われ、PDCAの過程が議事録の形で文書化される。
ガバナンスの方向性が明確とは思わないか。
株主が分散・流動化し、非取締役会設置会社の形態では株主によるコントロールが期待できない会社のガバナンスのアプローチとして、
・ 非取締役会設置会社の構造を踏襲しつつ取締役会に株主総会の包括的モニタリングの役目を持たせる方法をとった垂直的ガバナンスシステムが委員会設置会社
・ 取締役の合議によるPDCA強化と、監査役という独立機関による牽制、という方法をとった水平的ガバナンスシステムが監査役設置会社
と理解すべきなのである 。
監査役設置会社から監査等委員会設置会社への移行がガバナンス向上になる、という見解も、模式図化・モデル化した上で再検討すべきである。
まず、監査等委員会設置会社は上図のようなすっきりした模式図化は困難である。
次に、モデル化してみよう。
監査等委員会設置会社は、裁判官を国会議員にするのと似ている。
裁判官を国会議員にし一定の特権を付与すれば、一票の格差など政治の論理で進まない立法が促進される可能性がある。しかし一方で、自らが賛成した法律の運用において自由な心証が形成されない可能性があるほか、立法者としての良心と裁判官としての良心が葛藤する場面もあり得るのだ。
裁判官を国会議員にすれば立法・司法が改善すると考えられるだろうか?
監査等委員会設置会社になればガバナンスが改善するだろうか?
条件1: |
業務執行のみならず、非業務執行取締役の職務執行をも監督の対象とすること |
条件2: |
取締役会の意思決定機能と両立すること |
条件3: |
監査との相違を明確にできること |
条件4: |
下のモデルに即して説明できること。 この、チーム会議が取締役会、チーム会議メンバーが取締役である。 |
【モデル】 ここに学校の野球部がある。 「野球部の監督」という地位に特化した人はおらず、部員の自治で運営されている。 打撃パート・バッテリーパート・内野パート・外野パート・基礎体力パート、それぞれにパートリーダーが選定されている。 また、その他に対外代表たるキャプテン・購買担当・渉外担当・マネージャーなどの役割を持った部員がいる。 それらチームのコアメンバーはチーム会議を構成し、随時集まっている。 チームの方向性・強化計画・資源配分は、チーム会議で決定する。 各チーム会議メンバーは、チーム会議で計画の進行状況を報告する。 |